宿泊業界での「おもてなし」とは、宿泊客が滞在を存分に楽しめるよう、宿泊施設が心を込めて接遇、歓待、サービスを行うことです。
日本文化の象徴ともいわれるおもてなしですが、その丁寧なおもてなしゆえに、宿泊客とのトラブルが発生した際にも毅然とした態度が取りにくい場合もあります。また、トラブルとなった宿泊客の対応に追われ、業務の遂行が難しくなるというケースも起きています。
このような宿泊業界が抱える問題を改善するために、2023年12月に施行されたのが、改正旅館業法です。
改正旅館業法の概要は、①宿泊拒否事由の追加、②感染防止対策の充実、③差別防止の更なる徹底等、④事業譲渡に係る手続の整備の4つです。
この4つの旅館業法改正のうち、注目したい点は①、②の2つです。
1つ目の「①宿泊拒否事由の追加」は、宿泊客が施設側に対し理不尽な要求(特定要求行為)をして、業務に支障が出た場合、その宿泊客の宿泊を拒めるというものです。
このような行為を繰り返し行った場合に、施設側は宿泊を拒めるとされています。
2つ目は、感染防止対策の充実です。従来は宿泊客に感染症の疑いがあっても、施設側は宿泊を拒むことはできませんでした。しかし、改正法では、特定感染症(エボラ出血熱や結核)の患者に対し、宿泊拒否ができるようになりました。
【特定感染症の例】
※コロナウィルスは、五類感染症に移行しているため、特定感染症には該当しません。
また、従来では、マスク着用などの感染予防対策は、あくまでも個人の判断となり、施設側が協力をお願いできませんでした。しかし、改正旅館業法では、『特定感染症が国内で発生している期間に限り、その症状の有無等に応じて、法令等で定められた協力を求めることができる』というルールに変わっています。
*参考:厚生労働省│令和5年12月13日から旅館業法が変わります!
▶https://www.mhlw.go.jp/kaiseiryokangyohou/download/pamphlet_dl.pdf
宿泊施設側が業務を遂行したくても、理不尽な要求を繰り返す宿泊客により、業務に支障が生じ、円滑にサービス提供できないケースもありました。
特にコロナ渦では、マスク着用の有無などの感染症防止対策を巡って、トラブルに発展するという事例も多くありました。
また、明らかに感染症にかかっていると思われても、その判断が難しかったという背景もあります。
全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会によると、5割弱の宿泊施設が、宿泊客より対応困難な要求を繰り返し求められ、対応に苦慮した事例があったとしています。
*参考:政府広報オンライン│ホテルや旅館に泊まる前に知っておきたい「旅館業法」改正のポイント
▶https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202311/1.html
近年、宿泊施設の人手不足は深刻な問題です。この状況下において、通常業務が行えないほどのクレームがあると、他の宿泊客へ円滑なサービスの提供ができなくなり、さらなる苦情にも繋がりかねません。
また、今後新たな感染症がまん延する可能性も考えられますが、このような感染症防止の観点からも、改正旅館業法が施行されることになったのです。
改正旅館業法では、理不尽な要求を繰り返す宿泊客に対し、法の下に宿泊を拒めるというものですが、いくつかの課題もあります。
例えば、迷惑行為が夜間に起きた場合や、飲酒トラブルを起こした宿泊客が車で来館していた場合には、その後の宿泊先や移動手段はどうすれば良いのかなどの問題があります。
チェックイン前の迷惑行為により宿泊を拒否したケースでは、キャンセル料の徴収ができるのか。という懸念もあるでしょう。
感染症対策においても、あくまでも施設側から宿泊客へ感染症対策の協力のお願いができるという点に留まっています。協力を拒否したからといって、すぐに宿泊拒否対象になるわけではありません。
宿泊客は正当な理由なく感染症対策を拒むことはできないとされていますが、マスクの着用を拒否し続ける人や、そもそも、改正旅館業法を知らない人、理解していない人がルールを守らない場合には、対応が難しいケースも出てくるでしょう。
不安な声がある一方、一部の宿泊業界では、従業員を感染から守るのはもちろんのこと、他の宿泊客への感染も予防でき、また特定感染症がまん延している時も感染症対策をしながら営業を続けられると、旅館業法改正を肯定的にとらえています。
宿泊客が苦情を申し入れている場合には、問題客として扱うのではなく、クレーム内容についてしっかりと聞き取り、トラブルに発展しないように努めるのも宿泊施設の役目です。
そのうえで、もしも宿泊を拒否しなければならない事態になっても、毅然とした態度で対応できるように、あらかじめ策を講じておくことが大切です。
このような対応も、宿泊客とのトラブル回避のための手段の一つになるでしょう。
旅館業法改正の目的は、宿泊客とのトラブルを適切に解決し、業務の円滑な遂行を支援するものです。
まずは宿泊ルールを明確化するなどして、認識違いによるトラブル自体が起きないように心がけましょう。トラブルに発展してしまった場合にも、施設側が法の権利を振りかざすことなく、宿泊客の気持ちを汲み取りながら円満解決に向けて対応することが重要です。
トラブルに巻き込まれ、理不尽なクレームを受けてしまった従業員のケアをしっかり行うことも、従業員が快適に業務をするために欠かせないことです。
日本のおもてなし文化を尊重しつつ、いざという時に適切な対応が取れるよう、施設と従業員が一丸となってお客様対応への認識をすり合わせておくことが大切といえるでしょう。
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